9月第4週号 ラグビーワールドカップ2015 日本が南アフリカを撃破(英国ブライトン 2015年9月19日)日本代表ヘッドコーチ エディ・ジョーンズ  

#83 アチービング・コーチング

1955年からずっとラグビーをしてきましたが、日本が南アフリカに勝ったなんて、こんなにうれしいことはありません。このような成功をもたらせたものは何かを考えるきっかけができたからです。


様々な会社から一流プレイヤーが一堂に会し、世界の強豪を相手に小さな身体でヘッド・コーチのもと一丸になって戦う戦士の姿は全てのリーダーを奮い立たせました。

ダイバーシティー経営(リフレーミング)


世の中、グローバル時代です。混沌としていつ何が起こるかもわからない戦国時代には戦い慣れた国のチームが常勝し更に強くなっていくので、今回の日本のラグビーチームの勝利が語っていることを容易く理解するのは難しいでしょうが、世界のトップチームを相手に、日本のメンバー全員をこの野蛮で危険なスポーツの超一流のプレイヤーに育て、チーム力と個人の体力と技術、メンタル資質を超一流になるまで磨き、全てのメンバーをスーパーパーフォーマーに磨き上げゾーンに持って行ったのはヘッド・コーチとチームメンバーの信頼関係以外のなにものでもありません。 Super/performing

リーダーシップ・コーチング


全てのバランス感覚、技術だけでなく特にタフなメンタルを要求して育てたチームです。彼らはプロではなくアマチュアです。ラグビーは紳士がプレーする野蛮な競技です。それは普通の競技に比べてルールも複雑ですが、どんなに頭が良くても肉体的、精神的に強くなければ勝てません。モチベーション、価値観も他のプロフェッショナルプレーヤーとは全く別のものです。

これを経営に例えると、ダイバーシティー経営そのものです。自分が最高のプレイヤーとして選ばれるように最大の努力をし、競争の結果選ばれるリーダーになることです。名実ともに兼ね備えたグローバル・リーダーです。
もちろんこれらの快挙が一夜にしてなされたわけではありません。ここに至るまでには失敗や負けを何度も経験し、悔しいを思いずーとしてきたからこそ、大きな目的に向かっていくことができたのです。いきなり大きな変化があったのではなく、発達段階的に、失敗をかさね、少しずつ経験と訓練を積み重ねて鍛えてきたのです。日本はとかくチームを作りその中で強くなるのですが、今大会からは、ある国に3年以上居住した選手もその国のメンバーに選ばれるようになったこともダイバーシティーの大きな変化です。今回の日本チームの中には3年以上前に日本に帰化したメンバーが5人もいました。

今日の経営も全く同じです。このダイバーシティーが理解でき実行できる会社とそうでない会社とでは雲泥の差があるのです。それがグローバル経営です。

大きなプロジェクトだけでなく、人一人をグローバル環境の中で立派に育てるのもグローバル経営です。

最近ではグローバル企業の日本人リーダーを育てるためのコーチの依頼がUKからシンガポールを経て、日本に来ています。又中国での営業トレーナーを探すために、日本でそのトレーナーのコンピテンシーを見極めて、シンガポールのタレントマネージャーと一緒になって、アジア中から探しています。発注元はドイツの企業でかつて日本にあった会社です。このように最近は様々な日本のリーダータレント・エキスパートを欧米は頻繁に求めてきています。これらの例を見てもわかるように、特にコーチングの能力を持った経験者が求められています。如何にコーチングが海外では必要とされているかがおわかりになると思います。

経営に於いてはグローバルの未来感覚と行動力の持ち主が必要です。

コーチングも全く同じです。会社や資格証明書だけを信用してはいけません。アメリカの調査でいい加減なコーチがクライアントに害を与える場合があり、それが時には50%以上になるとまではっきりと言われているのです。
日本のコンサルタント会社のトップでさえもコーチングを全員受けさせたがほとんど用をなさなかったと言いきっています。そんなに簡単にコーチになれるのならば日本のコンサル・マネージャーはとっくの昔に皆コーチになっています。
それだけコーチになるのは容易なことではないのです。
彼らは単にコーチングと言う知識を学んだのであってコーチングを理解し、修得し、実行できるようになったのではありません。ゴルフのスイングを理論で学んで練習場・ドライビングレンジで打つことを理解したというのと同じなのです。

もし知識だけでよいのならば巷に出回っている多くの本、DVD、You Tube、放送大学、公開講座を読んだり見たり、受講すればよいのです。ラグビーだって多くのDVD が出ているのですが、ルールをどんなにマスターしてもプレーはできません。

では本当の経営のためのコミュニケーションとは何でしょうか。
何度も繰り返して勉強する知識と本物のコーチングの違い、これはコーチングだけでなく大学での勉強の仕方も全く同様です。教授と学生が顔を突き合わせて勉強することで、より多くを得ることができるのが本当の対面コミュニケーションです。その教授の思想、ビジョン、Learningさせる仕方、何十年も勉強した内容のその裏に隠されている意味、醸し出す経験からのオーラともいえる対面でしかわからない気概、精神的な思想を勉強しなければならないのです。

世界中で一番良い人を集める。これが最近の経営です。いくら自社の社員が良くても餅屋は餅屋です。世界中にはいろいろな技術、方法、内容を持った本当のプロフェッショナルが多くいるものです。

これはサーチ・エージェントではありません、その時だけ必要な人を集めるのです。

それには何が必要か、どこにそのような人がいるのか、どのようにして探し出すのか、どのようにしてコンタクトして短期間だけ相手を説得して採用するのかです。グローバルなお互いが信用しているネットワーク・メンバーシップです。

会社の文化、長年培われてきた環境をより向上させたいならば、型を破ることも厭わない文化を造らないと日本はさらに海外に後れを取ってしまいます。すでに日本は海外から10年以上後れているのです。
英語もしかりです。英語がNativeな国ばかりではありませんが、言葉が通じなければコミュニケーションが取れません。(潜在的文化)

現在の慣習(顕在化された行動習慣)をしっかり掴んでいなければなりません。慣習は文化よりも浅く、その下にマナーとエチケットがあり、さらにその下にルールがあるのです。ルールは慣習よりもとても浅いところにあるので、先ずはルール、そしてエチケット、それから慣習をしっかり掴んでいれば潜在的な変化が得られるのです。

何ができるかではなく、目的を達成するために何をどのようにするかがはっきりわかっていることが必要条件です。
この逆転の発想ができるか、連想するアナロジーの能力、直観と洞察、優しさと柔軟性のバランスを身につけて考えられるように習慣づけるのです。
これらの能力が何も意識せずにできるようになると本物です。
もっと思考を広げると、自分達がいる文化とチームのレディネスができているかどうかを認識した上で行動がとれるか、そしてそれは自分として、会社として前向きに挑戦しているかを知ることです。
これまで他の経営者の下でComfortable Zoneにいた人が、新しい緊張感に常にさらされることに慣れるのは並大抵ではありません。文化の違いの洗礼を受けるのと同様です。

どんなコーチ、リーダーを育てる人が必要か真剣に考えたことがありますか。

日本のような閉鎖的な国、クローズド環境とは何かを徹底的に理解してどのように変化への挑戦をしなければいけないかを知りましょう。
文化、地域、会社、チーム、個人と範囲・単位が一番小さいところにいる人はそのチャンクを広げることを学ばなければなりません。

マクロ経済とミクロ経済と同じです。

格差がある社会と皆が平等である社会とは、一党政治と民主主義と同様に全く相いれないものです。

能力、思考力も生まれた時は誰でも平等にゼロから始まっているのです。特別な能力を上げるための努力をしないで皆同じようになることができればよいのですが、そうはいきません。それがグローバル経営環境、文化です

他人に影響を与えてくれる人もいます。そういう人はその人を見ただけで本当にその人についていきたくなる雰囲気を持っているのです。支援型と指示型のバランスがきちんと出来て居るのです。

そのようなリーダー、あるいは明確なプロセスを持つことが大切とお思いの方は、人間関係はもとより、どのようにそのプロセスに影響が与えられるかです。その人がインフルエンサー、影響を与える人なのかをはっきりと見分ける力です。そのようなコーチにするのがコーチを養成する場所であり、会社の経営企画、人材開発なのです。これらは学問を超えた行動理論、経営倫理でもあり、実際に経験を積んで初めて達成できるのです。

なぜそういう人ができるのか、できないのかをしっかり判断し、明確に結果を出せる自社のヘッド・コーチを養成しましょう。

それが経営者に与えられた使命なのです。

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